前編では、創業者同士の出会いから会社の設立の背景を。後編では、「時間をふやす」というミッションからOffers(副業・複業マッチングサービス)の開発に至るまでの流れをインタビューしてきました。
前編はこちら
「一生考えられる課題」を解決するために起業。overflow創業者3人に起業の経緯をインタビュー(前編)
ー「時間をふやす」というミッションに対してさまざまなアプローチがあると思いますが、なぜ副業という切り口で事業を立ち上げたのですか?
田中大きく分けて三つあります。
一つ目は、スタートアップやベンチャー企業の「エンジニア・デザイナーの人材獲得」に課題を感じていたこと
二つ目は、「エンジニア・デザイナーの評価制度の難しさ」を感じていたこと
三つ目は、「働き方の多様化」が加速していること
です。
スタートアップや企業のエンジニア・デザイナーの人材獲得に課題を感じていたこと
当社のようなスタートアップだと、どうしても資本が限られてしまうので、求人媒体への出稿も限られてきます。
現在もクライアントのコンサルティングやマーケティング事業を行なっていますが、当時はそれでもかなりお金を切り詰めて、少しずつ進めるしかなかった。
僕自身も開発者として手を動かすのですが、自分だけで全部を回そうとすると、経営や全体を考えながら進もうとするためにアウトプットの質が下がってきているのを感じていました。
質の高いプロダクトをリリースするならマネジメント側に回り、適切な人に依頼していかないと事業のスピード感が出ないと痛感していました。
幸いなことに、創業メンバーがこれまで仕事関わったことのある方々に副業でお手伝いしていただいたことで、現在行っている事業が回り始めた感覚がありました。
なので、「企業側の採用を効率化したい」「近しいかつ優秀な人に最短でアクセスしたい」をもっと汎用的に実現することを考えていました。
また、これは東京都内・首都圏だけの話ではありません。地方ではより人材獲得が難しい状態にあります。人口減少とともにさまざまな対応がされていますが、副業人材を活用した経営がより大事になると考えています。
「エンジニア・デザイナーの評価制度の難しさ」を感じていたこと
これまでのキャリアで規模の異なる会社でエンジニアやデザイナーとして勤めていました。
エンジニア・デザイナーの評価制度は難しく、どれだけスキルセットを細分化して評価制度をつくっても、人によって差が生まれることもありますし、360度評価で割れることも。
例えば、大ヒットしたとあるゲームの事業部にいる人が、同じレベルのスキルセットを持った他の事業部の人より給与が高い、ということがあります。
仕方のないことでありますが、そのような違いが分かるとモチベーションは下がります。企業としては成果を出している事業部とそうでない事業部を同じ評価にするのは中々難しい判断です。
正社員が多ければ多いほど人件費が上がってしまうので、評価制度を柔軟に変えることは難しくなります。
それゆえに「モチベーションが下がった、もしくは自分の能力を持て余してる、もっとプレイヤー部分での貢献を評価してほしい」などさまざまな要望が上がってきます。
このようなことを間近で見てきたので、エンジニアやデザイナーのために多様な働き方にマッチした受け口を準備しなければいけない、ということに気づき、「少し(副業)でも力を借りたい企業とマッチングさせるサービスが良いのでは?」と考えました。
「働き方の多様化」が加速していること
クリエイターにとって、もっと滑らかに働き方を選択できるプロダクトをつくりたいと思っています。
私たちもクラウドソーシングサービスを利用して、多くの人に仕事を依頼させていただいています。
しかし、僕らの周りの大手IT企業のエンジニア・デザイナーのメンバーは、このようなサービスをアクティブに活用していませんでした。
どのサービスも、副業に特化した受発注の流れがスムーズになっていないことや、発注者側に求められる知識やリテラシーに大きく依存することが原因なのではないだろうか、ということに気がつきました。
そこで、「エンジニア・デザイナーの副業・複業」に特化したUX・事業を突き詰めようと決めました。
鈴木最初は、副業のプロセス管理に関するサービスをつくって、実際にヒアリングしていきました。一定のニーズはあることが分かりましたが、大きな課題を解決しているイメージがわきづらく……。.
田中そこでヒアリング内容を整理していったら、今の段階では副業のマッチングを増やすことが重要で、その次にプロジェクト管理が必要になってくると気がつきました。今ではいくつかのフェーズに分けて、プロダクトを開発していくことにしています。
ーOffers Magazineは2018年12月に先行してリリースしたわけですが、Offersに先駆けてつくられたのはなぜですか?
田中市場・副業人材を活用する企業への啓蒙のためです。Progateやドットインストール、TECH::CAMP、DMM webcamp、SHEなどのプログラミング教室や、デザインのスクールなども増えていますが、エンジニア・デザイナーの人手不足・人材不足はまだまだ改善の余地があると考えています。
就職や転職まではいかなくても、副業や業務委託でもいいからエンジニアやデザイナーが欲しいという会社も多くなってきていますが、受け入れ側のディレクション能力によって左右されているのが現状です。
フリーランスのように週2〜3日という働き方ではなく、週何時間という単位で細かくお願いしていくことで、うまく事業をされているスヴェンソンスポーツマーケティングさんなどの会社もあリます。
引用:
はい。現在、当社では10人の副業やフリーランスの方に関わっていただいています。
出典:https://offers.jp/media/313
しかし、副業エンジニア・デザイナーに仕事を依頼するときのコミュニケーションや契約形態、給与形態や使用するツール、仕事の割り振り方、管理の仕方など分からない部分が多い。
実際、色々ヒアリングを進めてみると、そのあたりの情報が少なく困っている企業も多かったんですよね。
弊社を手伝ってくれているエンジニアに聞いてみると、
「窓口である担当者がプロダクトの説明をする際に中々説明が通らず、先方のエンジニアとの伝書鳩的にコミュニケーションを取ることが面倒だと感じるようになってしまって」
「最初に提示された金額があまりにも低くて驚いた」
と、副業におけるコミュニケーション・契約・タスクでの金額の相場観が分かっていないなど、企業側の課題を打ち明けてくれました。
副業を受け入れる側の企業と、副業の働き手の両方に発信・啓蒙をしていきたいなと思っています。
税金などお金の面のサポートも含めて、網羅的にまとまった情報が無いと、副業は広がらない。
「Offers」は、ハイレベルな人材が、副業として会社の外でも動きやすい土壌をつくるためのプロダクトでもあります。
そのために僕らが「Offers Magazine」でも発信していきたいなと。
overflowでは、隔月に一回「副業・フリーランスの方のための税金・保険・節税」などをテーマにしたセミナーを仲の良いファイナンシャルプランナーの方にお願いしており、単純に副業マッチングをするための場の提供ではなく、会社運営そのものから副業にやさしい環境づくりを目指しています。
ふと思い立って企画と講師アサイン完了まで8分で終わった社内イベントの反応が上々でうれしみ
※ご興味ある方はご連絡ください〜 pic.twitter.com/38NK0Wo76b— yutosuzuki | overflow Inc. (@yutosuzuki) March 28, 2019
ー 初期の登録者を、エンジニアとデザイナーに絞ったのはなぜですか?
田中2点あって、
「他の職種に比べて、エンジニア・デザイナーはアウトプットするためのサービスが世の中にいくつかあり、
ある程度スキルセットが定量化しやすい」
「実体験からプロダクトで何が必要なのか初期の仮説が立てやすい」
ので最初はエンジニアとデザイナーに絞りました。
自分たちもエンジニアやデザイナーとして副業をしてきた実体験があるので、気持ちも分かるし、「こういうところは困りますよね」という課題意識をそのままサービスに落とし込むことができるのは、強みでもあると思っています。
ー求人サービスでは自分で副業案件を検索することができるのが一般的ですが、Offersでは検索できないようになっていますね。この仕様にされた狙いは何でしょうか?
鈴木売り手市場であり、現在の市場原理的には企業がユーザーを指名するスタイルがいいのではないか?という仮説を持っています。
極論ですが、企業側は良い人であればたくさんのお金と時間のコストを払ってでも採りたいと思っている。採用するためだったら積極的に動く動機があります。
一方、ユーザー側は特に優秀な人ほどお金には困っていない。副業に興味があっても始めるきっかけが無いので動かない。積極的に副業のために動く理由が無いんです。
なので、常に企業とユーザーの熱量というか、ベクトルの向きが逆にならないように気をつけています。僕たちはそのベクトルを正しく理解して、できるだけ企業側がアクションをして手応えを感じられるような状況にしないといけないと考えています。
ーなるほど、それでOffersは、即戦力人材が初期のターゲットなんですね。
鈴木はい。初期に良い事例をたくさんつくりたいなと思っています。
今は、まだまだ市場をつくるフェーズです。副業サービスがたくさん出てきていますが、これはとてもよい傾向だと思っていて。たくさんの人と協力して、まずは副業を当たり前にしたい、市場を形にしたい、と思っています。
なので、副業する側、受ける側の双方が「うまくいった!」という事例をたくさんつくり、発信していきたいです。逆が起こると「副業ってやっぱりうまくいかないんだね」というネガティブな印象を持たれてしまいますよね。これだけは絶対にしてはいけないと考えています。
ー 最初のターゲットである「ハイクラスな方」は副業に対して積極的に動かないとのことでしたが、その上でこうした副業プラットフォームを使う理由は何でしょうか?
大谷登録が最初の大きな障壁だと思っているので、ポチっと押したら勝手に声がかかるくらいがちょうどいいと思っています。私自身、すごくめんどくさがり屋なので笑
Offersは登録をとてもシンプルにして、待っているだけで声がかかる仕組みにしているので、それが大きなメリットかなと。
田中あとは登録ハードルだけでなく、つながりを可視化していることですね。
僕らが元々サイバーエージェントいたことや、鈴木がDeNAにいたこともあって、知人の起業家・経営者・VCの方に「良い人いない?」と聞かれることが多かった。
「良い人いない?」と聞くということは、自分の周囲の人のつながりやそのスキルが可視化されていないことだと思っていて。
自分の知り合いや、その知り合いに仕事をお願いできるスキルを持った人がいたとしても、普通はそこが可視化されていないので分からない。なので、スキル・つながりを可視化してするのはマストだと考えています。
企業担当者のアカウントからつながりを拡張・可視化し、オファーを送ることを可能にしたのが「Offers」です。自分たちでも採用にOffersを使っていますが、Offersを通じて採用した方にOffersを一緒に作っていただいてます。笑
ー 最後に、1年後や3年後の企業としての成長戦略について教えてください。
田中今考えているところは、元々やっていた金融領域のFincyを土台に据えていて、その上で副業・転職のOffers、その先各領域への展開。
副業・転職という人材領域だけではなく、ユーザー視点で連続的に問題解決する事業をつくっていきたいと考えています。
人生基本的には80~100歳くらいまでは生きるかと思います。
就職、転職、結婚、出産・育児、住宅購入、子供の教育、老後、終活などさまざまなライフイベントがある。
それに対し、Fincyを人生のプランニングを行うベースとして、各ジャンルの非合理をユーザーの目線を持ったプロダクトで解決していくという構想を持っています。
今はGoogleやYahooなどで検索することが当たり前ですが、さまざまなデータを活用することによって、将来的には検索するという行為自体を変えていくなど、「時間をふやす」ようなサービスを多方面からつくっていきます。
鈴木住む場所や職業の選択など、本当に重要な意思決定をする局面って、そういうライフイベントに合わせて出てくると考えています。
Fincyで、その人の職歴や現在の収入・支出・貯蓄額、将来いつ結婚していつ子供が生まれるのか、教育はどうするのかなど、ライフプランを一目で分かるようにする。
それをベースに、各ライフイベントに応じてoverflowが開発した各サービスを自然に利用し、最適なレコメンドを受けている状態になるのが理想だなと。それで最終的には役所に行っても待ち時間ゼロになったりとかいいんじゃないかなって。
田中そうそう、基本的に自分の知っている知識で検索をすることが多いので、本質的に自分にとって最適な情報かわからないもので意思決定をしてしまっていることが多いと思います。
様々なデータを活用することによって、そういった時間も効率化できるようなサービスを様々な角度から作っていきます。
ー そういった課題を解決できる、メディアを次々につくっていくというイメージですか?
鈴木メディアというよりは、サービスですね。マッチングでも良いですし、課金もあると思います。
現状よく利用するサービスでは、企業側が掲載料を出して、その情報をユーザーとマッチングさせていくものが多い。情報がなかった時代は、プラットフォーマーが足で集めてきた情報に価値があって、ビジネスが成立していたと思います。
でも今は、情報自体の価値は落ちてきていて、どう情報を取捨選択するかの方が価値が高くなってきています。
そうなると、ただ情報を掲示するだけではなく、ユーザーにとってオーダーメイドでパーソナルな情報をちゃんとつないでいってあげることに価値が出てくる。
例えば、将来から逆算して「今結婚するならこの式場がいい」「保険に入るなら今これがいい」「賃貸の不動産がいいのか、購入がいいのか」というのをユーザーデータから意思決定をさせることができるようにしたいなと。
その結果、各ユーザーがちゃんとレコメンドを重視した、自分にとって最適な意思決定ができるような状態になっていることが理想だと思っています。そこの支援ができるサービスをつくり出していって、「時間をふやす」というミッションを達成していきたいですね。
ー なるほど。鈴木さん、田中さん、大谷さん、ありがとうございました!
これからのoverflowを一緒に創りませんか?
前編では、創業者同士の出会いから会社の設立の背景を。後編では、「時間をふやす」というミッションからOffersに至る流れをインタビューしてきました。
今後、overflowでは、金融サービスの「Fincy」、副業・転職サービスの「Offers」をはじめとして、データドリヴンで「時間をふやす」というミッションに関するさまざまなサービスを立ち上げていく予定です。
現在overflowでは、事業をさらに拡大するべく複数ポジションを募集しております。これからの「Offers」はもちろん、組織づくりも一緒にチャレンジいただける方、ぜひお気軽に一度オフィスに遊びにきてください。